日下公人
繁栄のヒント
「頼もしい人」の条件
十年以上前だが、まだヨーロッパ共同体に綻びが見えない頃、フランスの外相が新聞記者の質問にこう答えたことがある。
質問「国際社会はしかじかのことを決めたが、フランスはそれに加わらない。フランスは孤立の道を選ぶのか」
答「国際社会はフランスを含めて成立している。したがって、フランスが入っていないのでは、国際社会が何かを決めたとは言えない。だから、フランスが孤立するというのも当たらない」
まことに立派な答である。フランスは国際社会のなかで不動の地位を占めているとの自信は揺るがないのである。
孤立と言われるとたちまち動揺して右往左往する日本のエリートやインテリには、この言葉を贈りたい。
反対に日本の庶民はシッカリしている。堂々としていると言ってもよい。
たまたまだが、昨夜、こんなテレビ番組を見た。大阪と東京は違うというテーマで、大阪の盛り場を歩く人にマイクを向けて聞く。
質問「ちょっと聞きにくいことを聞いてもいいですか」
答「かまへん。何や」
質問「パンツの前があいてます、と他人に言われたら、何と答えますか」
答「あけとんねん。それがなんや」
通りがかりの何人かに聞くが、同じ答えである。
面白いと思って関西出身の玄秀盛氏(日本駆け込み寺代表)に聞くと、まったく同じ答えが返ってきた。さらに続けて、「風、通しとんねん」でもいいし、「お前もあけたろか」でもいいと、機関銃のようにあとが出てくる。
番組では第二の質問もあって、「月給はいくらくらいですか」と聞くと、東京の人はなかなか答えないが、大阪の人はどんどん答える。女性連れの人でもためらいなく答える。
何でも平気で答え、さらにそれをギャグにして笑いを取る。
これを東京の人向けに解説すると、パンツの前をしめておくのは法律でも道徳でもなく単なるマナーで、その一歩先はファッションだから、各自の自由だとか、給料の高低は会社が決めることで安くてもやめないのは自分が決めたことだ、とか……である。
大事なのは自分の主体性で、会社からの信用も女性からの信用もそれがスタートだというのが身についているのである。
だから、「集団安保は是か非か」とか「景気はどうなるか」など、マスコミの設定した問題に対する答えは「アホか」の一言になる。
自衛隊の現場の指揮官は、「その時はやりますからご安心を」としか答えないのと同じである。
ハイ・リスクの近頃は世の中の風向きが変わって、インテリ向けの理屈はお呼びでなくなった。
インテリは新帝国主義とか、グローバリズムとか、あるいは国家別に見たパワーの比較とかが先立つが、それよりもエスニシティとか、近代思想の限界とか、宗教のパワーとか、文化の魅力とかが重要になってきた。
その盛り込み方も、庶民は直ちに本質を理解するからアッサリ書いてもよくなった。しかし、古い体質の国家は体裁にこだわる。
本心は略奪や脅迫であってもそうは言わないで、「戦略的互恵関係」「革新的利益」「新型の大国関係」(中国)とか、「米中リバランス」「アジア太平洋リバランス」(アメリカ)とかで、日本もナショナリズムと言われないように「積極的平和主義」と説明している。
その他、新語が次々に誕生するから世界は一体どうなるのかと心配になるが、多分、実態が行き詰ると言葉の世界が賑やかになるという、昔からよくある転換が始まっているのである。
こういうときは、「あけとんのや」とすべてを一身に引き受ける人が頼もしく見えてくる。
分かりますか、皆さん。
今年は国際社会が日本を頼ってくる年です。
2014年6月号 P20~P21
「国際社会」ってほんと便利な言葉だ。日本のマスコミで言う「アジア」=「特亜」みたいでねw
WiLL (ウィル) 2014年 06月号 [雑誌]
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