気概ある先輩を見習えばいいのに。
WiLL2014年12月号P22~P23 九段靖之介 永田町コンフィデンシャルより
高山正之氏の新著「プーチンよ、悪は米国に学べ」に、「ウソつきは大新聞だけとはかぎらない」と題する一節があり、警視庁記者クラブ詰めの時代を回想して、こんなエピソードを披露している。
小欄もこのクラブを訪れたことが何度かあるが、麻雀、花札、チンチロリン……博打の道具が散乱している。以下、高山氏の文章を引く。
「朝日新聞の記者が麻雀でズルをして露見した。落とし前をつけろと言われて、彼は奥の台所から包丁を持ち出しエンコ詰め、つまり小指を切って救急車で運ばれた……」
ズルはともかく、小指を落としてケジメをつける見上げた記者も、昔の朝日にはいた。この記者を見習い、社長・木村尹量以下数人が、記者会見の席上、古式に則り小指を詰めれば、世間も少しは納得する。世界も「血染めの儀式」を映像で見れば、日本を「性奴隷の国」と貶めた元凶が誰なのかをイヤでも認識するはずだ。
以下は俵孝太郎氏から聞いた話だ。かってリクルート事件で、未公開株をもらった人物のリストをめぐって大騒ぎの最中、朝日の記者が俵氏を訪れ、「問題の政治評論家として貴方の名がリストにある」と追及した。もとより身に覚えがないから否定する。「いや、リストは見せられないが、関係者の取材でも裏付けを得ている」と言い募る。
のちに「問題の政治評論家」が飯島清と判明した。つまり飯島の名がリストにあった。リストが明らかになる前、「週刊朝日」は飯島を起用し、「これはいかんですよ、しっかり事実を解明すべきです」などのコメントを掲載していた。ということは、俵氏に取材をかけた時点で、朝日の記者はリストを持っていなかった、ということを意味する。リストを持っていれば、当の飯島を起用してコメントを求めるはずもない。
つまり朝日の記者はリストを持たずに、「関係者」の噂話だけを頼りに「リストにお前の名がある」と俵氏にカマをかけたわけだ。のちに俵氏は新聞社幹部らの会合で、出席していた朝日の幹部を問い詰めた。以下はその幹部が内々の席で漏らしていたボヤキで、俵氏の耳に入ってきたセリフだ。
「ないリストをいかにもあるとうに見せかけて、相手をひっかけて取材するのもテクニックのうち。薄弱な根拠を確実な情報のように思わせて記事を書くのも仕事のうち。新聞とはそんなもので、その責任をとれと言われても困る」
小欄は朝日が吉田昌郎調書を入手したとして、これを報道した時点で、本当に調書を持っていたのかと疑っている。なぜなら、当の調書には、朝日が報じたように、吉田所長の命に反して大量の所員が逃げ去ったとする供述はどこにもない。ないものをあると書いたのは、当の調書を見ていない、つまりは入手していなかったか、それとも故意にねじ曲げて伝えたかのどちらかだ。
この時点で、吉田調書は非公開とされていた。吉田自身が「私の記憶だけでは心許ない。他に迷惑をかけることになるかもしれないから、非公開を前提にするなら話をする」としたからだ。朝日は非公開をよいことに、調書を入手したとして、関係者のあらぬ噂話を右のように捏造したのではなかったか。なにしろ死人に口なしだ。鬼籍に入った吉田が「それは違う」と反論できるはずもない。そうとでも考えなければ、白を黒と言いくるめる朝日の真逆の報道は説明がつかない。
ところが、安倍首相が吉田所長の遺族の諒解を得て調書を公開する構えを取るや、朝日は急遽、その公開当日に木村社長の「釈明会見」を開くに至った。安倍が調書の公開を決定しなければ、朝日は黙りを決め込んだに違いない。かくして朝日は、調書報道を批判する各方面に突きつけた抗議と脅しを撤回・謝罪する羽目となる。新聞史上、これほどの醜態を晒したケースは前代未聞だ。
『ニュースの天才』と題する映画がある。アメリカで最も権威ある政治雑誌と目された『ニュー・リパブリック』誌の記者が書いた記事が、ピューリッツァー賞を得ながら、のちに真っ赤な捏造記事と判明した事件を扱った映画だ。映画の冒頭に、ウォルター・リップマンのエピグラムが出て来る。「一流の記者はニュースを追いかけるのではなく、自らニュースを作り出す」とある。朝日にはこの手の「一流記者」が多いらしい。
十月十五日、新聞協会で木村社長は吉田調書の報道につき、業界に迷惑をかけたと謝罪した。しかし、いま一つの吉田清治証言が惹起した「従軍慰安婦」問題についてはひと言もない。それで済むはずもない。いずれは小指を詰めざるを得ない事態に立ち至る。
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